2006年 06月 12日
キンベル美術館は、本では見ていたものの、なんだか固い印象を持っていました。 ほかの大規模なカーンの仕事も同様に、ストイックで近寄りがたい印象で、むしろ 住宅作品のほうに興味を持っていたのですが、実際にキンベル美術館を訪れてみると その印象は全く変わりました。 内部空間の’質’は、やわらかく温かかった。 そしてそれを創り出しているのが、空間に入ってくる自然光だと気づきます。 ’空間’あるいは’空間における光’を初めて知ったような気持ちでした。 それまでわかったような気でいた空間とは、まったくレベルの違う空間の質をもっていた。 そして、2日間続けてほぼ一日中そこに身を置いていると、訪れてくる人たちも それを感じていることがわかってきます。 ’空間のもつ力’を初めて知った瞬間でした。 そしてその後しばらくカーンにハマることに。 夏にアメリカを旅してカーンの作品をいくつか訪れ、また書籍も読み漁りました。 難解だと思っていたカーンの言葉も、実際に建築を訪れてからは、不思議と感性の 部分で、以前よりも自然にすっと理解できるようになりました。 空間において優しい光を創り出せば、それが癒しのような効果をもたらすと、 自分の体験を通して信じるようになり、そこからずっと、空間内部における自然光について いつも意識して建築をみるようになりました。 そうなってくると、壁や天井など、空間を囲む要素が視界から消えていき、囲まれている 空気、あるいは溶媒のようなエーテルのようなものに意識がいくようになりました。 このエーテルのようなものを創り出すことができるのが、建築なのではないか、と 考えるようになりました。またそれが、’建築ができること’のひとつなのだと。 シアトルにあるスティーブン・ホール設計のチャペルの内部空間の光も名作だと思います。 様々な色を用いて、’光の遊び’のような感じ。 一方で、現代の光の建築家として、シンプルな光を使うポルトガルの建築家アルヴァロ・シザ の光も体験してみたい、と思い、その年の秋から始まるローマプログラムの直前にスペイン・ ポルトガルで、彼の作品を見て回りました。 彼の建築は、いつも白いのですが、その白の意味を現地でようやく理解しました。 白は反射率の高い色。白い壁や床、天井は、光を空間の奥へと導く反射板の働きをもつ と同時に、美しい光を映すキャンバスの役割も。 しかし、光の強い地中海周辺でなら成り立つかもしれないけれど、もっと北のほうの光の 淡い地域では同じことが出来るかどうかはわからない。だから、リージョナルな建築である ともいえる。 その後、空間内部における光についての意識を保ちながらイタリアに戻り、 2005年9月末からローマ・プログラムが始まる。
by ogawa_audl
| 2006-06-12 14:02
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